ねらい
自分の速さで読む音読なら、文字を1語ずつ音にしていても間に合います。ところが教科書の音声に重ねて読ませると、音読に慣れてきた生徒でも、途中から遅れはじめます。速さを上げる音読は、音声に重ねて読むオーバーラッピングを、再生の速さを0.8倍、1.0倍、1.2倍と上げながら3回行う活動です。
0.8倍では、ほとんどの生徒がついていけます。1.0倍でつまずく所が出はじめ、1.2倍になると、1語ずつ読んでいては間に合いません。遅れる所は、たいてい語と語の音がつながる所や、her や the のような弱く短く読む語が続く所です。速さを上げると、自分がどこで遅れるかが、自分で分かります。分かった所だけを練習して、もう一度重ねます。時間は、全部をくり返すことより、遅れた所に使います。
音読タイムアタックが、自分の読みの時間を計って縮めていくのに対して、こちらは外の速さ(音声)に、自分の読みを合わせていきます。
手順
- 本文の意味をつかみ、音声のあとについて読めるようになってから置きます。初めて読む本文では行いません。音声は、再生の速さを変えられるデジタル教科書などを使います。速さの目盛りが違う機器では、近い速さ(0.75倍や1.25倍)でかまいません。
- 0.8倍で、音声に重ねて読みます(説明を入れて2分)。文字は見てかまいません。読み終えたらすぐ、遅れた所の語に小さく印をつけます。
- 1.0倍で重ねます(1分30秒)。遅れた所に、印を足します。
- 1.2倍で重ねます(1分30秒)。遅れた所と、口が回らなかった所に印を足します。
- 印の所だけを練習します(3分)。ペアで、印のある語を含む意味のかたまりを、ゆっくり、ふつう、速く、の順に言い合います。1人1台の端末で音声を聞けるなら、印のある文だけを1.2倍で何度か聞いて重ねます。
- 最後にもう一度、1.2倍で重ねます(2分)。読み終えたら、内容の問いを1つ出します。
先生が言う言葉の例です。
| 場面 | 先生の言葉 |
|---|---|
| 始めるとき | Read along with the audio. Slow first, then faster. |
| 速さを上げるとき | A little faster this time. Stay with the voice. |
| 遅れたとき | Put a mark where you fell behind. 遅れた語に印 |
| 印の所を練習するとき | Practice only the marked parts. Slow, normal, fast. |
見本
- “Here,” he said. He gave her the umbrella and ran into the rain.
- The next morning, Mika went to Sota's desk. “Thank you for yesterday. Here's your umbrella.”
- Sota smiled, but his voice sounded strange. He had a cold.
この3行を音声に重ねて1.2倍で読むとき、遅れやすい所の例です。見本の本文には音声がないので、示すのは目安です。
| 行 | 遅れやすい所 | 聞こえ方の例 | わけ |
|---|---|---|---|
| 4 | gave her the umbrella | ゲイヴァ ジ アンブレラ | her の h が弱くなり、gave とつながる。母音の前の the は「ジ」と読まれることが多い |
| 4 | ran into the rain | ラニントゥ ザ レイン | ran の n と into の i がつながる |
| 5 | The next morning | ザ ネクス モーニング | next の t が、ほとんど聞こえない |
| 6 | sounded strange | サウンディッ ストレインジ | sounded の最後の d が弱くなり、strange に続く |
| 6 | He had a cold. | ヒ ハダ コウルド | had と a がつながって、1つの音になる |
4行目の He gave her the umbrella and ran into the rain. は、10語が切れ目なく続く文です。0.8倍なら1語ずつでも間に合いますが、1.2倍になると、her と the が抜けて gave umbrella のように読んでしまう生徒が出ます。抜けた語に印をつけ、gave her を「ゲイヴァ」と1つのかたまりで言う練習をしてから戻ると、文がつながって聞こえるようになります。
5行目には、遅れても追いつける所があります。desk. のあと、ミカのせりふが始まる前には、ふつう短い間が入るからです。遅れたら無理に追いかけず、次のピリオドや引用符の所から入り直せばよい、と伝えておきます。
6行目の He had a cold. は、短いのに遅れやすい文です。had a が「ハダ」とつながるので、1語ずつ読もうとすると a を言う時間がありません。1.2倍で読み終えたら、Why did Sota's voice sound strange? と1つだけ聞きます。速さを追うのに気をとられていた生徒は、ここで答えに詰まります。
音がつながる所は、教科書の音声にそのまま入っています(リンキング)。決まりとして先に覚えさせるより、遅れた所で「ここはつながって聞こえる」と気づかせるほうが、口に残ります。
変化をつける
- やさしくする: 0.8倍と1.0倍の2回だけにします。中1の前半や、音声に重ねるのが初めてのクラスはここから始め、1.0倍で重ねられるようになったら、次の時間に1.2倍を足します。
- むずかしくする: 1.2倍で重ねられたら、1.3倍に上げるか、速さを1.0倍に戻して、文字を見ずに音声を追うシャドーイングへ進みます。文字を見ないと難しさが1段上がるので、速さは一度戻します。
- 対話文で: 役に分かれ、自分の役のせりふだけを音声に重ねます。速さが上がるほど、相手のせりふのすぐあとに入らなければならず、会話の受け答えの間の短さを体で知ることになります。
- 高校では: 目標を、英語のニュースの速さに置きます。教科書の音声は、聞き取りやすいように、ふつうの会話よりゆっくり読まれていることがあります。1.2倍、1.3倍と上げていくと、ニュースの速さに近づきます。評論の段落で行い、最後に段落の要点を1文で言わせます。
つまずきと手当て
- 速さだけを追って、口がもつれる: 全部を速く読もうとせず、印の所だけを練習します。もつれる所は、たいてい音がつながる所なので、そのかたまりを1つの音として言えるまでくり返します。
- 意味を考えずに音を追う: 速さを上げるほど、意味から離れやすくなります。読み終えるたびに、内容の問いを1つ出します(見本なら Why did Sota's voice sound strange?)。答えられない生徒が多ければ、1.0倍に戻します。
- 一度遅れると、そのあと全部くずれる: 遅れたら、その文はあきらめて次の文の頭から入り直す、と最初に決めておきます。入り直す所を探すので、文の切れ目を目で追うようになります。
出どころ
音声に重ねて読む方法は、オーバーラッピングと呼ばれ、音読の型の1つとして広く使われています。再生の速さを変えて練習することは、デジタル教科書や音声の機器で速さを手軽に変えられるようになって、授業でも取り入れやすくなりました。この活動の、0.8倍・1.0倍・1.2倍の3回と、遅れた所に印をつけてそこだけを練習する回し方、見本の遅れやすい所の表は、このサイトで作ったものです。