ひとことで言うと
ナチュラル・アプローチは、理解できるインプットを大量に与え、話すことを強制せず、誤りを直しすぎず、不安の低い教室で言語を習得させる教授法です。子どもが母語を身につける順序(たくさん聞いてから、少しずつ話す)を教室で再現しようとします。日本の小学校の外国語活動(音声で慣れ親しむ・言わせることを急がない)は、この考え方に一番近い形です。
出どころ
スペイン語教師のテレルが1977年に提案した実践を、クラッシェンが自分の5つの仮説(特にインプット仮説と情意フィルター仮説)で理論づけ、1983年に共著で発表しました。授業は3つの段階で進みます。理解の段階(聞いて動く・指さす・はい/いいえで答える。TPRをよく使う)、初期の産出(1語か2語で答える)、発話の広がり(文で話す・役割をもった活動)。誤りの訂正は初期にはせず、意味が通じたことを優先します。1970〜80年代の人間中心の教授法とコミュニカティブ・アプローチの間に位置し、その後「インプットだけでは不十分」という批判(アウトプット仮説)を受けました。
授業での実際の使い方
学校の教室で使えるのは、単元の前半の設計と、誤りへの構え方です。
| 段階 | やること | 時間の目安 |
|---|---|---|
| 理解の段階 | 新出の表現を、絵・動作・場面で聞かせる。答えは動作・指さし・Yes/No でよい | 単元の1〜2時間目 |
| 初期の産出 | 1語で答える質問(What color? → Blue.)。文で言えなくてよい | 2〜3時間目 |
| 発話の広がり | 文で言う・相手を替えて聞き合う・役割のある活動 | 4時間目以降 |
| 誤りへの構え | 前半は意味が通じれば直さない。後半にリキャストで形を返す | 単元を通して |
中学校では、新出文法の導入の時間に「言わせる前に聞かせる量」を増やすのがナチュラル・アプローチの使い方です。先生の英語(ティーチャートーク)で新出の文を10回聞かせてから、初めて言わせます。不安を下げる工夫(一斉に言う→ペアで→1人で、の順)も、この教授法の情意フィルターの考え方から来ています。
よくある誤解
- 教えない教授法、ではありません。教師の仕事は「理解できるインプットを設計して大量に出す」ことで、準備はむしろ多くなります。
- 沈黙期を認める=ずっと話させない、でもありません。言わせないのは初期だけで、産出の段階は設計に入っています。
- 誤りを直さない教授法、でもありません。初期に直さないだけで、発話が広がった段階では形を返します。
校種別の違い
| 校種 | 特徴 |
|---|---|
| 小学校 | 外国語活動がほぼこの形。聞いて動く→1語で答える→文で言う、を単元で |
| 中学校 | 新出文法の導入で「言わせる前に聞かせる量」を増やす。不安を下げる順(一斉→ペア→1人) |
| 高校 | 本文のインプットの量(音声・速読)を確保する考え方に残る。産出は論理・表現で |
| 塾 | 個別指導は解説から入りやすい。新出の文は先に3回聞かせてから解く |
この用語が出てくる教材と記事
- 小学校の英語のスモールトーク。先生の英語を聞いて、言わせることを急がない小学校の型です。
- 文字と音をつなぐ。音声で慣れ親しんでから文字へ、という順序の記事です。
- リスニング指導の技術。理解できるインプットの3段階の設計です。
- 中学英語の文法導入ネタ20選。言わせる前に聞かせる導入の例です。
- 理論の側はインプット仮説、理解の段階でよく使う教授法はTPR、小学校の実際の形はスモールトーク、先生の英語はティーチャートーク、系譜は英語教授法の一覧へ。