ひとことで言うと
インプット仮説は、アメリカの言語学者クラッシェンが唱えた「今の力(i)より少しだけ上(i+1)の、理解できるインプットを大量に受け取ることで、言語は習得される」という仮説です。これに対して、理解できるインプットだけでは足りず、話す・書くこと(アウトプット)で気づきが起きて伸びる、というアウトプット仮説(スウェイン)と、意味のやり取り(インタラクション)の中で調整が起きて伸びる、というインタラクション仮説(ロング)があります。3つを並べると、授業の「聞く・読む」「話す・書く」「やり取り」の3つの時間がなぜ要るかが説明できます。
出どころ
クラッシェンは1980年代前半の著書で、5つの仮説をまとめて提唱しました。
| 仮説 | 中身 | 授業で言い換えると |
|---|---|---|
| 習得と学習 | 無意識に身につく「習得」と、意識して学ぶ「学習」は別 | 文法の説明(学習)だけでは話せるようにならない |
| モニター | 学習した知識は、話すときの見張り(訂正)にしか使えない | 文法は書くときの見直しに効く |
| 自然な順序 | 文法は決まった順で身につき、教える順とは一致しない | 三単現の s は教えてもすぐには定着しない |
| インプット | i+1 の理解できるインプットが習得の条件 | 少し上の英語を、意味が分かる形で大量に聞かせる・読ませる |
| 情意フィルター | 不安が高いとインプットが入らない | 安心して聞ける教室が先 |
スウェインは1985年、カナダのイマージョン教育の生徒(インプットは大量なのに文法の正確さが伸びない)の実測から、アウトプットには「言えないことに気づく」「仮説を試す」「形について考える」の3つの働きがあると唱えました。ロングは1980年代から、意味が通じないときに聞き返す・言い直す「意味の交渉」が、i+1 のインプットを作り出すと唱えました(インタラクション仮説)。
授業での実際の使い方
3つの仮説は対立ではなく、授業の3つの時間に対応させて使います。
| 仮説 | 授業の時間 | やること | 目安 |
|---|---|---|---|
| インプット | 聞く・読む | 既習の語が9割の英語を、意味が分かる形(絵・場面・既習の文脈)で大量に | 1時間に先生の英語10分+速読か多読5分 |
| アウトプット | 話す・書く | 言えないことに気づく場面を作る。3文の英作文・1分の即興 | 1時間に1回、産出の場面 |
| インタラクション | やり取り | 情報の差のあるペア活動で、聞き返し(Sorry? / What do you mean?)を許す | 聞き返しの表現を黒板に貼っておく |
i+1 の「+1」を作るのは教材の選び方です。速読の文章は既習の語彙が9割、リスニングは既習の文法に新出を1つ、というように「少し上」を機械的に決めておくと、仮説が教材の選択基準になります。
よくある誤解
- インプットだけで話せるようになる、ではありません。クラッシェン自身の主張ではありますが、イマージョンの実測(スウェイン)がそれを否定し、今は「インプットが土台で、アウトプットとやり取りが要る」という理解が標準です。
- アウトプット仮説は「たくさん話させればよい」ではありません。言えないことに気づいて、次のインプットに戻る、という往復が中身です。
- 5つの仮説は「検証済みの理論」ではなく「仮説」です。教職の試験では仮説として答え、授業では設計の物差しとして使います。
校種別の違い
| 校種 | 特徴 |
|---|---|
| 小学校 | インプット仮説が一番近い校種。先生とALTの英語を大量に聞き、話すのは慣れ親しんだ表現から |
| 中学校 | 3つを1時間に並べる。速読と多読でインプット、3文の英作文でアウトプット、情報の差のあるペア活動でやり取り |
| 高校 | 論理・表現がアウトプットとやり取り、英語コミュニケーションがインプット、と科目で分かれている |
| 塾 | 解説(学習)に寄りやすい。インプットの時間(音声を聞く・読む)を毎回5分入れる |
この用語が出てくる教材と記事
- リスニング指導の技術。「流して答え合わせ」をやめる3段階で、理解できるインプットの作り方です。
- 速読ラダー中1。既習の語彙が9割の「少し上」の文章を、タイムを測って読む教材です。
- 即興で話す力の育て方。アウトプットで「言えないこと」に気づかせる1分の即興です。
- 中学英語のコミュニケーション活動18選。意味の交渉が起きる、情報の差のあるペア活動です。
- 授業での量の話はインプットとアウトプット、仮説を教授法にしたものはナチュラル・アプローチ、インプットの量を作る読み方は多読、やり取りの中で形に注意を向ける考え方はフォーカス・オン・フォームへ。