ひとことで言うと
ダイレクト・メソッド(直接教授法)は、母語に訳さず、目標言語だけを使い、実物・動作・絵で意味を直接結びつけて教える教授法です。略して DM と書きます。「This is a pen.」を、ペンを持ち上げながら言って、訳を与えずに分からせる、というのが典型です。文法訳読法(GTM)への反発として19世紀の終わりに生まれ、その後の音声重視の教授法(オーラル・メソッド、オーディオリンガル)の土台になりました。
出どころ
1880年代のヨーロッパで、訳読では話せるようにならないという批判から起きた「改革運動」の中で形になりました。グアンの連続動作(シリーズ・メソッド)やソヴールの自然法が先行し、1878年にベルリッツが始めた語学学校が、この方法を商業的に広めました。原則は、母語を使わない、日常の語彙と文から、文法は帰納的に(例から気づかせる)、口頭を先に、実物と絵で意味を示す、正しい発音を最初から、質問と答えのやり取りで進める、の7つです。日本では明治期に外国人教師の授業がこの形で、後にパーマーのオーラル・メソッドが日本の学校向けに整えました。
授業での実際の使い方
教授法を丸ごと使うのは語学学校の少人数の形で、学校の教室では「場面を限って使う」のが現実的です。
| 場面 | ダイレクト・メソッドの使いどころ | やること |
|---|---|---|
| 教室英語 | 指示は訳さず、動作で分からせる | Stand up. Open your books to page 20.(本を開いて見せる) |
| 新出語の導入 | 訳ではなく実物・絵・動作で | eraser を消す動作と実物で。訳は最後に確かめとして |
| 新出文法の導入 | 場面の中で聞かせ、質問と答えで気づかせる | 先生が写真を見せて I went to Kyoto yesterday. → Did you go ...? のやり取り |
| 小学校の活動 | 訳を介さずに音と意味を結ぶ | 絵カードと動作で。文字と訳は使わない |
メリットは、聞く・話すが最初から動き、生徒が「英語を英語で分かる」経験をすることです。デメリットは、教師にかなりの英語力が要ること、40人の教室では質問と答えのやり取りが行き渡らないこと、抽象的な語(正義・成長)を実物で示せないことです。だから学校では、導入と教室英語をダイレクト・メソッドで、説明と確かめは日本語で、という使い分けになります。
よくある誤解
- 「英語で授業」=ダイレクト・メソッドではありません。学習指導要領は生徒が英語を使う時間を求めていて、母語の禁止までは求めていません。説明で日本語を使うことは、ダイレクト・メソッドの原則には反しますが、学習指導要領には反しません。
- 訳をしないほうが常によい、でもありません。抽象語や文法の確認は、訳を1回入れたほうが速く正確です。
- ダイレクト・メソッドとオーラル・メソッドは同じではありません。オーラル・メソッドはダイレクト・メソッドの考え方を、日本の学校の大人数の教室向けに手順化したものです。
校種別の違い
| 校種 | 特徴 |
|---|---|
| 小学校 | 一番近い校種。絵カード・動作・実物で、訳を介さずに慣れ親しむ活動がそのまま |
| 中学校 | 教室英語と導入に使う。文法の説明と確かめは日本語で、という使い分け |
| 高校 | 本文の内容理解を英語の質問で進める形に残る。抽象語は訳を使う |
| 塾 | 個別指導では使う場面が少ない。会話コースを持つ教室では、実物と絵で意味を示す原則が使える |
この用語が出てくる教材と記事
- 中学英語の文法導入ネタ20選。説明の前に「使いたくなる場面」を作る導入で、訳を介さない導入の例が並んでいます。
- 中学英語の授業開きガイド。最初の1時間で教室英語を訳さずに通す流れです。
- 入試の英語と、使える英語力は両立するか。「英語で授業」と訳の関係をほどいた記事です。
- 反発した相手は文法訳読法(GTM)、日本の教室での形はオールイングリッシュとクラスルームイングリッシュ、日本の学校向けに整えた教授法はオーラル・メソッド、系譜の全体は英語教授法の一覧へ。