ひとことで言うと
文法訳読法は、文法規則の説明と、英文を日本語に訳す作業を中心にした教授法です。読みは「ぶんぽうやくどくほう」、英語では Grammar-Translation Method、略して GTM と書きます。教師が文法を説明し、生徒が1文ずつ訳し、教師が訳を直す、という授業の形で、日本の英語教育を長く支えてきました。批判も多いのですが、精読(1文を骨まで読む)の道具としては今も有効で、問題は「授業のすべてが訳読になること」のほうです。
出どころ
18〜19世紀のヨーロッパで、ラテン語・ギリシャ語の教育法を近代語に当てはめたのが始まりとされ、プロイセンの教科書で体系化されました。日本では明治の英学が「訳読」を中心に発展し、大正のパーマー(オーラル・メソッド)以降、何度も批判を受けながら、大学入試の読解と結びついて高校・予備校に定着しました。2009年告示の高校学習指導要領が「授業は英語で行うことを基本とする」と定めたのは、この教授法一辺倒の授業への転換を求めたものです。
メリットとデメリット
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 読む力 | 1文の構造を正確に取る力が育つ。関係詞や分詞が重なった長い文も、骨から読める | 訳してから意味を取る癖がつき、返り読みになって読む速さが上がらない |
| 授業の運営 | 教科書と黒板があれば、40人でも同じ手順で進められる。準備が少なく、先生の英語力にも左右されにくい | 授業の大半が先生の説明と生徒の訳になり、生徒が英語を聞く・言う時間がほとんど残らない |
| 理解の確かめ | 生徒が分かったかどうかを、日本語の訳ですぐに確かめられる | 「訳せた」と「読めた」を取り違えやすい。訳文の日本語を整える時間が、読む時間を食う |
| 身につく力 | 文法の体系的な知識と、入試の和訳・下線部の説明問題に向く力 | 聞く・話す力と、その場でやり取りする力は育たない |
まとめると、精読の確かめとしては効率のよい道具で、授業の型としては生徒が英語を使う時間を奪う方法です。この2つを分けて考えるのが、今の授業での使い方(下の節)の前提です。
批判の中身
文法訳読法への批判は、19世紀の終わりから、ほぼ同じ3点に集まっています。
- 音声が育たない。1880年代のヨーロッパの「改革運動」は、話しことばと発音から教えるべきだと訳読を批判し、訳さずに教えるダイレクト・メソッドを生みました。日本では大正期にパーマーがオーラル・メソッドで同じ点を突いています。
- 英語に触れる量と使う量が少ない。説明も訳も日本語で進むので、1時間に生徒が聞く英語は本文の数文、言う英語は指名された1文だけ、ということが起きます。
- 理論の裏付けが無い。教授法の概説書として広く読まれているリチャーズとロジャーズの本は、言語学や心理学、教育の理論から根拠を示した文献がないまま、広く使われ続けてきた方法だと書いています。
一方で反論もあります。構造を正確に取る力は訳で確かめると育ちやすく、これが無いと長い英文を読む段階で止まる、日本語と比べることで文法の違いに気づける、という主張です。訳を学習の道具として見直す議論もあり、クックの『Translation in Language Teaching』(2010年)がよく引かれます。批判されているのは訳そのものより「授業のすべてが訳読になること」で、訳を精読の確かめに限って残す今の使い方は、批判と反論の両方を受けた形です。
授業での実際の使い方
訳読を「授業の型」ではなく「精読の道具」として使う形です。1回15分に限ります。
| 手順 | やること | 時間 |
|---|---|---|
| 骨を取る | 1文の主語と動詞に印。修飾(前置詞句・関係詞節)をかっこでくくる | 5分 |
| 訳で確かめる | かっこの外から日本語に置き換える。訳は「読めたか」を確かめる手段で、訳文を作ることが目的ではない | 5分 |
| 英語に戻す | 訳を見て英文を言う(サイトトランスレーション)。ここで訳読が音声とつながる | 5分 |
順番は「読んでから、確かめの訳」で、「訳してから読む」ではありません。長文の全文を訳す時間は作らず、構造の難しい3文だけをこの型で扱い、残りはスラッシュリーディングと速読で読ませます。文法の説明は日本語でしてかまいません。「英語で授業」は、説明の言語より、生徒が英語を使う時間を増やすことを求めています。
よくある誤解
- 訳読は悪、ではありません。構造を正確に取る力は訳読で育ち、これが無いと高校の読解で止まります。
- 「英語で授業」=訳の禁止、でもありません。訳は確かめの道具として残してよく、禁止されているのは教師の説明が授業の大半を占めることです。
- 直読直解と訳読は二者択一ではありません。精読は訳で確かめ、速読は訳さずに読む、と場面で分けます。
校種別の違い
| 校種 | 特徴 |
|---|---|
| 小学校 | 訳読はしない。意味は絵と場面で取る |
| 中学校 | 本文の難しい文だけ、骨を取って確かめの訳。全文和訳をノートに書かせない |
| 高校 | 訳読が一番残っている校種。精読15分の型に限り、残りの時間を音読・要約・速読に回す |
| 塾 | 入試の和訳問題があるので訳の練習は要る。ただし訳を「作文」として仕上げる練習と、読解の確かめは分ける |
この用語が出てくる教材と記事
- 精読ラダー中1。1文を骨まで読む15分ワークで、訳読の「骨を取る」を型にしたものです。
- 入試の英語と、使える英語力は両立するか。「英語で授業」への葛藤の現実的なほどき方です。
- 英語長文の教え方(塾講師・個別指導向け)。訳して聞かせるのをやめて、語数と段で上げる教え方です。
- 訳を英語に戻す技術はサイトトランスレーション、精読と速読の分け方は精読と速読、「英語で授業」の中身はオールイングリッシュへ。