進学校に着任した最初の学期に起きるのは、たいてい次の3つです。教室の3割が内職をしている。質問が鋭くて、答えに詰まった1回が尾を引く。同僚からは「うちは訳読でいい」と言われ、自分がやりたい授業との折り合いがつかない。
このうち、内職は原因ではなく結果です。原因は、その50分で配っているものが、生徒が自分で手に入れられるものと同じだったこと。ここを動かさない限り、話し方や板書をいくら整えても戻りません。
授業でしか手に入らないものは、3つしかない
参考書・映像授業・問題集の解説が届かない場所は、実ははっきりしています。
- 初見の英文——まだ誰の解説もついていない文章を、その場で読む経験
- 採点の基準——記述をどう採点されるのか、なぜその点になるのか
- 他人の答案——同じ問いに、40人がどう答えたか
文法事項の説明はこの3つに入りません。入らないものを50分の中心に置くと、その時間は「知っていることの確認」になります。逆に言えば、上の3つを1つでも入れた日は、成績上位の生徒ほど顔を上げます。
初見の英文を、毎回の授業の中心に置く
教科書本文は、予習された時点で初見ではなくなります。進学校では予習率が高いので、本文をていねいに扱うほど、授業は答え合わせに近づきます。
やり方はひとつで、本文とは別に初見の英文を1本、毎回入れることです。当サイトの長文読解ラダーは、そのために書き下ろした300〜450語の英文を10本、基礎・標準・発展の3版で用意しています。進学校で使うのは発展版(約450語)で、設問は下線部和訳・内容説明・20語要約の全問記述です。
| 使い方 | 時間 | ねらい |
|---|---|---|
| 帯活動として毎回 | 10分(本文のみ) | 読む速さを落とさない。設問は宿題へ |
| 週1回まとめて | 25分 | 記述の答案を回収して、次の時間に採点例を配る |
| 考査の大問として | 20分 | 教科書本文の再掲をやめる |
3つ目が大きい変化です。定期テストの読解に教科書英文だけを使っている学校は52.2%という調査があります(神奈川県立国際言語文化アカデミア・村越/江原による県内高校の実態調査)。進学校でもここは同じで、範囲を告げた時点でテストは暗記の勝負になります。初見の英文を1題入れると、その週の授業で本文をどう読んだかが、はじめて点数に効きます。
訳を配るのをやめる、の意味
「訳読をやめる」を「訳をさせない」と読むと、進学校では失敗します。国公立二次に和文英訳と英文和訳が残っている以上、訳す力は入試そのものだからです。
やめるのは訳ではなく、訳が授業の目的地になっている状態です。全訳が終わった時点で授業が終わるなら、生徒は訳を先に手に入れれば出席する理由がなくなります。
長文読解ラダーの大問1を、どの版でも「段落の働き」にしてあるのはこのためです。
[2]は、譲歩・主張・例・提案のどれか。譲歩から主張へ転換しているのはどの文か。
この問いは、訳が手元にあっても答えられません(訳を読んでもなお、その段落が何をしているかは自分で決める必要があります)。そして、ここができるようになると、要約とパラグラフ・ライティングが同じ力の裏表になります。
採点基準を見せることが、いちばん強い
記述の採点基準を生徒に見せている授業は、あまり多くありません。模範解答は配られますが、「なぜその答案が6点で、この答案が4点なのか」までは、たいてい教師の頭の中にあります。
ここを紙にすると、進学校の生徒には確実に効きます。長文読解ラダーの発展版には、教師面に採点キットを付けました。模範解答に加えて、部分点の刻み表と、想定答案3つを実際に採点してみせた例です。刻みの原則も紙に印字してあります。
- 読みやすさは減点しない
- 1つの誤りで2か所引かない
- 「だいたい合っている」に点を出さない
- 骨格を取りちがえた答案は、単語が合っていても0点
- 20語超過は減点せず、超えた部分を読まない
この5行を最初の授業で配ると、そのあとの答案が変わります。自由英作文でも同じで、意見文の設計図のルーブリックはすべて加点式にしてあります(減点式にすると、書く量を減らすほど点が上がってしまい、指導と逆向きの力がかかります)。
「英語で授業」は、比率ではなく場面で決める
進学校ほど、この葛藤は強く出ます。文部科学省の令和6年度英語教育実施状況調査では、教師の英語使用が発話の半分以上と答えた割合は、英語コミュニケーションで46.6%、論理・表現で31.3%でした。論理・表現のほうが低いのは、文法解説中心の運用に戻りやすいからです。
比率を目標にすると、説明まで英語でやることになって精度が落ちます。決めるなら場面です。
| 場面 | 言語 | 理由 |
|---|---|---|
| 指示・活動の進行・やりとり | 英語 | 分量が多く、繰り返されるので生徒が慣れる |
| 文法の説明・誤りの指摘 | 日本語 | 正確さが最優先。ここを英語にすると質問が減る |
| 生徒の発表への返し | 英語 | 内容に反応する部分。評価の言葉ではない |
この線引きは同僚にも説明しやすく、「訳読でいい」という助言とも正面衝突しません。詳しくは入試の英語と、使える英語力は両立するかに書きました。
定期考査は、平均点を先に決める
進学校の考査は、難しくしすぎると平均が40点台まで落ち、易しくすると上位30人が満点付近に固まって差がつきません。どちらも、作ってから数えているために起きます。
定期テスト設計図は、作る前に配点と観点比を埋める1枚です。進学校で使うときのめやすは、次のようになります。
- 知識・技能 40%/思考・判断・表現 60%(初見読解と記述で取る)
- 記述の配点は全体の30%まで(採点時間が現実的に収まる上限)
- 平均点の目標を先に書く(60点台に置くと、上位も下位も動く)
考査全体の組み方は高校英語の中間考査、どう作るかにまとめてあります。
まとめ
- 内職は原因ではなく結果。自分で手に入るものを配っている時間に起きる。
- 授業でしか手に入らないのは、初見の英文・採点の基準・他人の答案の3つ。
- 訳はやめない。訳が目的地になっている状態をやめる(段落の働きを問う)。
- 英語で授業は比率ではなく場面で決める。説明の正確さは譲らない。
- 考査は平均点を先に決めてから作る。
紙は読解・速読のページと論理・表現のページにあります。発展版は3年間そのまま使えるので、高1で型を配り、高2で長文、高3で記述の採点基準、と同じ枠のまま重ねられます。