大学を出て、あるいは進学校から異動して、いわゆる教育困難校に着任した最初の週。教科書を開かせるところまでで15分かかり、本文に入る前にチャイムが鳴る。宿題は3割しか出てこない。前の時間にやったことを、誰も覚えていない。
このとき最初に疑うべきは、生徒の学力ではなく、こちらが使っている紙の前提です。市販の教材も指導書も、宿題が出ることと前時の記憶が残っていることを前提に作られています。前提が成り立たない教室にその紙を持ち込むと、授業は毎回、前提の回復から始まることになります。
前提から外す3つ
外すのは次の3つです。外したうえで成立する紙を用意すれば、同じ生徒のまま授業は動きます。
- 宿題——家庭学習を計算に入れない。定着はすべて授業内で終える
- 前時の記憶——「先週やった」から始めない。必要なことは毎回その紙に書いてある
- 教科書を開けること——最初の1枚は、教科書を出さずに始められるものにする
3つ目は軽く見られがちですが、いちばん効きます。授業の立ち上がりで教室が崩れるのは、たいてい「持ってきていない生徒」と「持ってきた生徒」が分かれた瞬間です。プリントを配ってから始めれば、全員が同じ位置に立てます。
最初の3分で、全員が正解する
学び直しから始めるクラスの紙で、いちばん大事なのは難易度ではなく順番です。1枚の最初に置く問題は、その日いちばん易しいものにします。
当サイトの10分小テストや定着ドリルの基礎版は、大問1が語群つき・選択肢つきになっています。ここを3分で全員が埋められると、そのあとの20分が変わります。逆に、最初の問題でつまずくと、その生徒はその日の残り47分を降りてしまいます。
50分を、10分×5で組む
1コマ完結にするには、山を1つに絞ります。学び直しの帯では、次の形が扱いやすいはずです。
| 時間 | すること | 使う紙 |
|---|---|---|
| 10分 | 帯(前回と同じ形式・中身だけ差し替え) | 速読ラダーの基礎版、または中学版の音読プリント |
| 10分 | 今日の1点だけ説明(板書は3行まで) | 見取り図プリントの帯1版 |
| 15分 | 手を動かす(書く・言う) | 定着ドリルの基礎版 |
| 10分 | ペアで確認(答えを言い合うだけ) | 同じドリル |
| 5分 | 出口の1問(今日の1点だけを問う) | 小テストの大問1 |
見取り図プリントは学力帯ごとに4版あり、帯1版は「どこまで見せるか」を絞ってあります。全部を見せた紙を配ると、学び直しの教室では情報量そのものが壁になります。
出口の5分は消さないでください。ここを削ると、その日に何ができるようになったのかが誰にも残りません。押したときに削るのは、真ん中の説明です。
中学まで戻るのは、正攻法
be動詞と一般動詞の区別がついていない、三人称単数のsが入らない、アルファベットの小文字が怪しい。ここまで戻る必要があるとき、高校の教材ではどうにもなりません。
英語教材ラボの中学版は、全教材が無料です。高校版の各文法ユニットには、対応する中学の文法へ戻る橋を付けてあります。高1の最初に中学内容を整理し直すのは、学習指導要領も想定している正攻法で、うしろめたさを感じる必要はありません。
文部科学省の令和6年度英語教育実施状況調査では、高校3年生でCEFR A2相当以上に達しているのは51.6%です。半分の生徒は中学卒業段階の力に届いていない、というのが全国の数字で、そこから始める授業のほうがむしろ標準に近いということになります。
評定と、単位の話
学び直しの帯でいちばん実務的に重いのは、授業ではなく評定です。定期テストの点だけで付けると欠点が並び、提出物で救おうとすると、今度は「出したかどうか」の評価になります。
河合塾の教員アンケートでも、観点別評価の自由記述に「見てすぐわかるもの(提出の有無・記述量)の評価にならざるを得ない」という声が並びました。これを避ける現実的な線は、次の2つです。
- 知識・技能の到達点を、帯に合わせて下げる(同じ規準を全校で使い回すと、評定のほうが壊れます)。見取り図と指導案を学力帯ごとの4版にしてあるのは、規準の到達点も帯で変えるためです
- 思考・判断・表現を、量ではなく1問で取る。定期テスト設計図で、初見の短い英文1題を先に置いてから、残りを埋めます
「主体的に学習に取り組む態度」を定期テストで測ろうとしないでください。ここは提出物と授業内の記録で取るもので、テストに持ち込むと提出の有無の言い換えになります。考え方は3観点、結局どう取るかに整理しました。
平均点は、55点から60点に置く
学び直しの帯で平均が30点台になると、生徒は「自分は英語ができない」という結論だけを持ち帰ります。かといって全員80点では、次に何をすればいいかが誰にも見えません。
作る前に平均点を決めて、そこから逆算します。
- 大問1〜3を、授業でやった形そのまま(配点50%)——ここで50点を作る
- 大問4に初見の短い英文(配点20%)——初見読解ミニテストの基礎版がそのまま入ります
- 記述は1問だけ(配点10%)——採点時間が現実的に収まる量
- 残り20%を語彙・表現に
初見の英文を1題入れておくのは、範囲を告げた瞬間にテストが暗記大会になるのを防ぐためです。基礎版は語注と設問の支援が厚いので、学び直しの帯でも0点にはなりません。
パフォーマンステストも、この帯でできる
やり取りテストは、上位校のものだと思われがちですが、学び直しの帯のほうが向いている面があります。紙のテストで点が取れない生徒が、話す場面では反応できることが珍しくないからです。
やり取りテストの運営キットを使うときは、次の3つを削ってください。
- 時間を90秒から45秒に(質問カードは2枚まで)
- 話題を事前に全部公開する(当日に驚きを作らない)
- 評価規準を、生徒に配る面に印刷したまま渡す(何を言えば点になるかを先に見せる)
準備の差が点差になる形式(発表型)は、この帯では後回しにします。年間の置き順はパフォーマンステストを40人でどう回すかに書きました。
まとめ
- 疑うのは学力ではなく紙の前提。宿題・前時の記憶・教科書を、前提から外す。
- 最初の3分で全員が正解する順番にする。「できた」は設計で作る。
- 50分は10分×5。出口の5分は消さない。
- 中学まで戻るのは正攻法。中学版の教材は全点無料で、高校版から橋がかかっている。
- 評定は、帯に合わせて到達点を下げる。テストは平均点を先に決める。