活動をやれば「入試に間に合わない」と言われ、演習をやれば「これでは4技能が育たない」と言われる。この板挟みは、経験年数に関係なく効いてきます。2015年のベネッセの調査(高校英語教員3,935名)では、「入試対応とコミュニケーション能力育成の両立が困難」と答えた教員が74.4%でした。同じ調査で、「生徒が自分の考えを表現する機会」を重要と答えたのが66.8%、実際にやれているのが9.9%。57ポイントの差がそのまま葛藤の大きさです。
ただ、この差は理念の対立から生まれたものではありません。同じ50分を取り合っているという、それだけの話です。理念で解こうとすると答えが出ないので、時間の配り方の問題として扱います。
共通テストが、実際に測っているもの
前提を1つそろえておきます。「入試英語」の中身が、この数年で変わりました。
- 大学入学共通テストのリーディングは8大問・総語数およそ5,600語。文法だけを問う独立問題はありません
- 「共通テストは6,000語超」という数字は、2024年1月までの旧課程・6大問時代のものです。2025年1月の新課程移行で8大問になり、総語数はむしろ700語ほど減りました
- 減ったぶん重くなったのは、第7問・第8問の複数の資料を突き合わせてレポートを完成させる形式です
- 令和8年度(2026年1月実施)の平均点はリーディング62.81点、リスニング54.65点。リスニングのほうが低い年が続いています
つまり、共通テストが要求しているのは「速く読む」だけではなく、「複数の情報源を照合して、必要なところを取り出す」です。これは授業でやっている情報整理そのもので、演習と活動の距離は、思われているほど遠くありません。
二次試験がある学校では、訳す力を切らない
一方で、国公立の二次試験には和文英訳・英文和訳・要約が残っています。ここを「古い」と切り捨てると、生徒の進路に責任を持てません。
やめるのは訳ではなく、訳が授業の目的地になっている状態です。この線引きの具体は進学校に着任したときに書きました。
「訳をやらないんですか」への答え方
生徒からも保護者からも同僚からも聞かれます。用意しておく答えは、理念ではなく手順の説明にします。
訳はやります。ただし、全文を配るのは授業の外です。授業では、訳が手元にあっても答えられない問いをやります。段落の働き、要約、それから記述の採点基準です。
この言い方には根拠があります。全訳は自習でも手に入りますが、採点基準と他人の答案は授業でしか手に入りません。
線を引く場所は、3つ
50分の取り合いを止めるには、「どちらもやる」ではなく「どこで分けるか」を決めます。分ける場所は3つです。
| 分ける軸 | 授業でやる | 自習に渡す |
|---|---|---|
| 時間 | 初見・その場でしかできないこと | 覚える・繰り返す(語彙・音読・過去問) |
| 支援 | 採点基準・他人の答案・フィードバック | 解答解説がついているもの |
| 場面 | 指示・活動・やりとりは英語 | 文法の説明・誤りの指摘は日本語 |
3つ目については、文部科学省の令和6年度英語教育実施状況調査に手がかりがあります。教師の英語使用が発話の半分以上と答えた割合は、英語コミュニケーションで46.6%、論理・表現で31.3%。生徒の言語活動が授業の半分以上は、英語コミュニケーション60.4%に対して論理・表現48.6%です。文部科学省自身が「論理・表現では英語による発話の割合が少ない傾向」と指摘しています。
この差を埋めるために説明まで英語にすると、正確さが落ちて質問が減ります。比率ではなく場面で決めると、説明の精度を保ったまま英語の量を増やせます。
同じ紙で、両方を測る
いちばん時間が浮くのは、演習と活動を別々の紙でやるのをやめたときです。1枚で両方が測れる形は、実際にはそれほど多くありません。
- 20語要約——読めたかどうかと、書けるかどうかを1問で測ります。共通テストの情報整理とも、二次の要約とも地続きです。要約ラダーは、落とす順番(例→くり返し→修飾→数字。主張は最後まで残す)を決めて削る枠です
- 下線部の内容説明——和訳より読解の負荷が高く、答案が日本語なので採点が速い。長文読解ラダーの発展版は、この形を全問記述で組んであります
- 賛否を選んで80語——意見文の設計図の型そのままで、自由英作文の答案になります
どれも、授業の活動としても定期考査の大問としても使えます。授業と考査で型が変わらなければ、生徒は考査用の別の書き方を覚えずに済みます。
3年間の配分で考える
1年で両立させようとすると、どちらも中途半端になります。学年で役割を分けてください。
| 学年 | 授業の重心 | 入試との関係 |
|---|---|---|
| 高1 | 型を配る(要約・パラグラフ・段落の働き) | 直接の演習はしない。土台がこの年に決まる |
| 高2 | 長さに慣れる(300〜450語を毎週) | 共通テストの語数に自然に届く |
| 高3 | 採点基準と時間配分 | 過去問は自習へ。授業は答案の検討に使う |
高3の授業を過去問の解説で埋めると、解説を聞く時間だけが増えます。過去問は自習に渡し、授業では答案を持ち寄って採点基準に照らすほうが、点は動きます。
まとめ
- 両立の困難は理念ではなく、50分の取り合い。分ける場所は時間・支援・場面の3つ。
- 共通テストは8大問・約5,600語。「6,000語超」は旧課程の数字で、いまは複数資料の照合が重い。
- 訳はやめない。全訳を配るのを授業の外に出す。
- 20語要約・内容説明・賛否80語は、演習と活動を1枚で兼ねられる。
- 高1で型、高2で長さ、高3で採点基準。過去問は自習に渡す。
紙は読解・速読のページと論理・表現のページにあります。50分の中の配分そのものは、英語コミュニケーションの50分をどう組むかに別途まとめました。