単元の評価規準を作ろうとして、「そもそも1年でどこまで行けばいいのか」が決まっていないことに気づく。外国語の評価でいちばん最初につまずくのは、じつはここです。目盛りのない物差しで単元ごとに規準を書くので、単元によって要求が高かったり低かったりします。学期末に所見が書けないのも、多くは同じ原因です。
その目盛りにあたるのが、学年ごとの学習到達目標です。英語教育では長く「CAN-DOリスト」と呼ばれてきました。中学校・高校の話だと思っている先生が多いのですが、小学校にも設定を求める記述があります。この記事は、5・6年の外国語科で学年ごとの到達目標を作る手順です。単元の評価規準そのものは評価規準の作り方に、年間の流れ全体は評価と所見のハブにまとめました。
小学校向けの「手引き」は無い。あるのは学習指導要領の一文
まず、探しても見つからないもののほうをはっきりさせておきます。文部科学省の「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標設定のための手引き(平成25年3月)は、表題が「各中・高等学校の外国語教育における」で始まります。小学校は対象外で、小学校版の手引きは今も国から出ていません。研修で「CAN-DOリストを作りましょう」と言われて資料を探し、中学校の様式しか出てこなくて止まる——これは先生の探し方の問題ではありません。
代わりに根拠になるのは、学習指導要領そのものです。外国語科の「指導計画の作成と内容の取扱い」の配慮事項に、こうあります。
イ 学年ごとの目標を適切に定め,2学年間を通じて外国語科の目標の実現を図るようにすること。
そして学習指導要領解説 外国語活動・外国語編は、この一文をこう説明しています。
今回の改訂で領域別の目標が明確に示されたことにより,その目標と関連付けられた学年ごとの「学習到達目標」を各学校において設定する必要がある。
「学習到達目標」がかぎかっこ付きで出てきて、しかも「各学校において設定する必要がある」と書かれています。中学・高校のCAN-DOリストと同じ考え方が、名前を変えて小学校にも入っている、と読むのが素直なところです。
ここで線を1本引いておきます。同じ配慮事項は3・4年の外国語活動にもあります(「2学年間を通じて外国語活動の目標の実現を図る」)が、解説で「学習到達目標」の語が出てくるのは5・6年の外国語科のほうだけです。5・6年は領域別の目標が示されたから、というのがその理由で、外国語活動側の説明は「各学校が主体的に学年ごとの目標を定める」までで止まっています。3・4年の書き方は最後の節に分けました。
解説が挙げている3つの効果
解説は、各学校が学習到達目標を定めることの効果を3つ挙げています。作る前にここを読んでおくと、何のための紙かがぶれません。
| 効果 | 解説の要旨 | 学校での意味 |
|---|---|---|
| 見通しの共有 | どんな英語力が身に付くか、何ができるようになるかをあらかじめ明らかにし、児童や保護者と共有できる | 授業のねらいが明確になる。児童向けの言い方が要る |
| 5領域のバランス | 知識・技能の習得にとどまらず、五つの領域にわたる総合的な資質・能力の習得が重視される | 話すことばかり、書くことばかりに偏らない |
| 指導者間の共通理解 | 教師によって指導方法が大きく異なることがある中で、共通理解を図り均質的な指導を行える | 担任・専科・ALTで物差しがそろう |
3つ目が、実務ではいちばん大きいところです。小学校の外国語は、同じ学年でも担任・専科・ALTと指導する人が変わります。学年ごとの到達目標は、その人たちの共通言語になります。
手順1: 2学年ぶんの目標を、5年と6年に割る
学習指導要領の5領域の目標は、5年・6年をまとめた2学年ぶんで示されています。最初の仕事は、これをどう割るかを決めることです。
| 領域 | 学習指導要領の目標(要旨) | 置きどころの目安 |
|---|---|---|
| 聞くこと | ア 簡単な語句や基本的な表現を聞き取る/イ 具体的な情報を聞き取る/ウ 短い話の概要を捉える | ア=5年、イ=5〜6年、ウ=6年 |
| 読むこと | ア 活字体の文字を識別し読み方を発音する/イ 音声で十分に慣れ親しんだ語句・表現の意味が分かる | ア=5年、イ=6年 |
| 話すこと[やり取り] | ア 指示・依頼をしたり応じたりする/イ 考えや気持ちを伝え合う/ウ その場で質問したり答えたりする | ア=5年、イ=5〜6年、ウ=6年 |
| 話すこと[発表] | ア 日常生活に関する身近で簡単な事柄について話す/イ 自分のことを、内容を整理した上で話す/ウ 考えや気持ちを、内容を整理した上で話す | ア=5年、イ・ウ=6年 |
| 書くこと | ア 大文字・小文字を活字体で書く、語順を意識して書き写す/イ 例文を参考に書く | ア=5年、イ=6年 |
ア・イ・ウは、そのまま難しさの階段になっています。解説は各項目の説明を「アの項目を踏まえた上で」と書き始めます。だから割り方は自由に見えて、実際にはほぼ決まっています。迷ったらウを6年に置いてください。「話すこと[発表]」のイとウに入っている「伝えようとする内容を整理した上で」が、5年と6年を分ける実際の境目です。5年は話せればよく、6年は順番を選んで話す、ということです。
ここでやってはいけないのは、指導要領より上の目標を書くことです。よくあるのが「書くこと」で、「自分の考えを英文で書ける」と書いてしまう例です。指導要領が求めているのは、書き写すことと、例文を参考にして書くことまでです。到達目標が指導要領を超えると、その先にある評価規準も、パフォーマンステストも、所見も、まとめて重くなります。
手順2: 教科書の単元名を入れて、観察できる行動にする
領域の目標をそのまま学年の到達目標にすると、どの学校でも同じ文になり、授業と結びつきません。使っている教科書の単元を材料にして、教室で観察できる行動に書き直します。
たとえば5年の「話すこと[やり取り]」を、NEW HORIZON Elementary 5 の Unit 2(Here We Go! 5 なら Unit 2)で書くとこうなります。
「バースデーカレンダーを作る場面で、When is your birthday? / What do you want for your birthday? を使って相手にたずね、自分のことも答えて、表を完成させることができる。」
一文に、①場面(何をする時間か)②使う表現③どこまでできれば到達か、の3つを入れます。単元名か活動名が入っていると、年度末に「これはどの単元で見たのか」を探さずに済みます。教科書ごとの単元一覧は教科書別の評価規準例に、単元ごとの実物は単元パックにあります。
「読むこと」と「書くこと」だけは、単元の場面に落としにくい領域です。5・6年の授業で読む対象は、掲示・メニュー・友だちの作品くらいしかありません。ここは無理に場面を作らず、「友だちが書いたポスターを読んで、好きなものを1つ選べる」のように、実際に教室にある紙で書きます。この2領域をどこで見るかは聞く・読む・書くの評価にまとめました。
手順3: 支援の量で3段にする
到達目標を1段で書くと、「できた・できない」の2値になります。学級の実態には合わないので、3段にします。段の分け方には2つの軸があり、混ぜると使えない表になります。
- 言語的な難しさで分ける(語→文→まとまりのある話)
- 支援の量で分ける(支えがあれば→ひとりで→自分から)
学級で使うなら、支援の量です。同じ「誕生日をたずねる」でも、掲示を見ながらできるのか、何も見ずにできるのか、自分から相手を替えて何度もやるのか。教室で観察できるのはこちらだからです。
当サイトのcan-doリストは、小5・小6それぞれ5領域×3段の30項目を、この軸で作ってあります。★1が支えがあれば、★2がひとりで、★3が自分から。★3は「教科書を超えて届いた」段なので、全員が届かなくてかまいません。★3を表の3列目に横並びにせず別枠に置いてあるのは、横に並べると★3が「まだの列」として児童の机の上に出てしまうからです。★3の段が最初からあることは、英検などで教科書の先にいる子への応え方にもなります(クラスに英検を持っている子がいる)。
児童に見せる面と、先生が使う面を分ける
解説の効果の1つ目は「児童や保護者と共有する」ことでした。ただし、先生用の文をそのまま配ることはできません。「簡単な語句や基本的な表現を用いて」は、5年生には読めません。
同じ項目を2通りに書きます。
| 面 | 書き方 | 例(5年・聞くこと★2) |
|---|---|---|
| 児童面 | 「〜できる」で終わる短い1文・ひらがな多め・総ルビ | ゆっくり言ってもらえば、道あんないや教室の英語を聞いて、その通りに動ける |
| 教師面 | 評価規準と所見にそのまま使える言い方 | ゆっくりはっきり話されれば、Go straight. / Turn right. や教室英語などの短い簡単な指示を理解し、そのとおりに動いたり地図をたどったりすることができる |
児童面には、外部試験名もCEFR-Jのコードも印刷しません。それから、できていないところを塗らせる形式にしないでください。当サイトの表が「あてはまるところに日づけを書く」形なのは、空欄が「できていない印」に見えないようにするためです。到達表は、成績を伝える紙ではなく、次に行きたいところを見つける紙です。
単元の評価規準とは別物
この2つは混同されがちですが、役割も寿命も違います。
| 学習到達目標(can-do) | 単元の評価規準 | |
|---|---|---|
| 範囲 | 学年・1年間(5領域) | 単元・数時間(3観点) |
| 作る時期 | 年度はじめ(前年度末) | 単元に入る前 |
| 文末 | 〜できる(到達の記述) | 〜している/〜しようとしている |
| 使い道 | 年間の見通し・指導者間の共通理解・児童との共有 | 記録に残す評価の物差し |
| 直す頻度 | 年に1回 | 単元ごと |
順番は、到達目標が先で、評価規準が後です。先に学年の物差しがあると、単元の規準は「その物差しのどこを、この単元で見るか」を選ぶ作業になります。国立教育政策研究所の参考資料が示す文型に単元のことばを入れる手順は、評価規準の作り方のほうに書きました。
3・4年(外国語活動)はどう書くか
外国語活動の領域は3つです。聞くこと、話すこと[やり取り]、話すこと[発表]。読むこと・書くことはありません。そして目標の文末が5・6年と違います。
ア 身の回りの物について,人前で実物などを見せながら,簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする。
「話すことができるようにする」ではなく「話すようにする」です。到達そのものを求めていないので、5・6年と同じ形の到達目標表を3・4年に作ると、指導要領より重い目標になります。3・4年で学年の目標を書くなら、「〜しようとする姿が見られる」「〜に慣れ親しんでいる」まで。指導要録でも、3・4年は数値評定を書かず、顕著な事項を文章で端的に記述します(外国語活動の所見の書き方)。
なお外国語活動の「話すこと[やり取り]」ウの目標は「サポートを受けて、……質問をしたり質問に答えたりするようにする」で始まります。支援は例外措置ではなく、目標の中に最初から書き込まれています。3・4年で英語が出てこない子への手立ては、3・4年で声が出ない子にまとめました。
作ったあとにやること
到達目標は、作った日ではなく使い始めた日から効きます。
- 児童に配るか掲示する。 学期のはじめに1回、終わりに1回見返せば十分です。振り返りカードの「めあて」と、ことばをそろえておきます
- 職員室で共有する。 学年で1枚。担任・専科・ALTが同じ紙を見ている状態を作ります。研修で扱うなら、5領域のうち1つだけを全員で書いてみるのが早いです
- 年度末に見直す。 実際に届かなかった項目、逆に全員が軽く超えた項目を1つずつ直します。最初から完成させようとしないでください
作るときは、5領域を一度に埋めようとしないことです。話すこと[やり取り]から始めて、次に発表、そのあと聞くこと。読むこと・書くことは最後で、しかも2項目ずつしかありません。1時間の学年会で1領域、と決めれば、5回で終わります。
小学校で作った到達目標は、中学校でそのまま続きます。中1の4月に来る子たちを見てきた立場から言うと、いちばん引き継がれてほしいのは「掲示を見ながらなら言えた」という記録です。支援があればどこまで届いていたか——これは評定のアルファベット1文字にも、「英語が好き」という一言にも残りません。学年の到達目標を3段で作っておくと、その情報が形として残ります。