授業参観のあとで保護者から「英検は受けさせたほうがいいですか」と聞かれる。単元のはじめのSmall Talkで、まだ扱っていない過去形がすらすら返ってくる。指導要領と教科書だけを見て授業を組んでいると、この2つの場面で急に物差しがなくなります。
先に結論を書きます。小学校の教科書が目指す範囲はCEFRでいうA1の入り口あたりで、英検でいえば5級と重なる部分が大きい。英検3級はA1相当で、これは国が「中学校卒業までに6割」と掲げているのと同じ帯です。つまり3級を持っている子は、成績のつけ方の上では何も特別扱いしませんが、教科書の到達だけでは足りない子として授業設計の対象になります。手立ては「先生役を頼む」ではなく、同じ活動の中で役割と負荷を変えることです。順に説明します。
教室の実態: 小学生の英検受験者は37万人、伸びの中心は4級以上
英検協会の統合報告書2025によると、2024年度の小学生の英検(実用英語技能検定)受験者は37万5,991人。この10年で約1.5倍に増えました。注目すべきは内訳で、増加の中心は4級以上です。4級が約1.6倍、3級が約1.9倍、準2級は約2倍。「記念受験の5級」ではなく、中位級に挑む小学生が増えています。
全国の小学生はおよそ600万人ですから、単純に割れば受験者は16人に1人。受験は高学年に寄るので、5・6年の教室で見れば割合はもっと上がります。学校や地域の差は大きいものの、「クラスに英検を持っている子がいる」は、もう珍しい状況ではありません。
これは塾や家庭学習だけの話ではなく、教科化の帰結でもあります。同じ報告書は、学習到達目標の明確化が進んだことを増加の背景に挙げています。学校で外国語を教科として教えるようになった結果として、教室の中の学力の幅が広がった。その幅に授業がどう応えるか、という話です。
物差しをそろえる: 教科書・英検・CEFRの対応
対応関係を1枚にしておきます。CEFRとの対応は英検協会自身が示しているものです。
| CEFR | 英検 | 学校の側の目安 |
|---|---|---|
| B1 | 2級 | 高校卒業段階の国の目標帯(6割) |
| A2 | 準2級 | 中学校の教科書の後半〜高校入門 |
| A1 | 3級 | 国の計画が「中学校卒業までに6割」と掲げる帯 |
| A1の入り口 | 5級・4級の範囲 | 小学校の教科書(語彙600〜700語)が目指すところ |
5級の目安は「中学初級程度」とされていますが、小学校の外国語で扱う語彙600〜700語や、I like / I can / I want to go to といった表現はこの範囲とかなり重なります。高学年で5級に挑む子が多いのは、教科書の勉強がそのまま足場になるからです。
一方で3級はA1相当。第4期教育振興基本計画が「中学校卒業段階でCEFR A1レベル相当以上を6割」と掲げている、その帯です。NEW HORIZON ElementaryやHere We Go!のUnitを順にこなして届く場所ではありません。3級を小学生のうちに取った子は、物差しの上では中3の目標ラインを先に越えていることになります。
ただし、級とcan-doの★は一致しない
ここで急いで付け足したいのは、資格の級と教室で見える力は軸が違う、ということです。
当サイトのcan-doリスト(小5・小6)は5領域×3段の30項目で、★は「どれだけ支えがあればできるか」の階段です。★1が掲示や先生の支えつき、★2がひとりで、★3が自分から。一方、英検の級は問題の難しさの階段で、しかも筆記とリスニングが中心です(3級から面接がありますが、質問される側です)。
だから、こういうことが普通に起きます。英検3級を持っているのに、やり取りの★3「その場で自分から質問を1つ作る」で止まる。筆記の力と、目の前の相手に自分から踏み出す力は、別の筋肉だからです。逆に、資格は何も持っていないのに、★3に一番乗りする子もいます。
英検を持っている子を「英語ができる子」と一括りにすると、この違いが見えなくなります。見るべきは級ではなく、教室の活動のどの段にいるかです。can-doリストの★が、資格と授業のあいだの通訳になります。
授業でどう応えるか: 引いておく2本の線
手立ての前に、やらないことを2つ決めておきます。
1つ目、先生役を頼まないこと。「教えてあげて」は一見その子を活かす指示ですが、その子自身が学ぶ機会を奪います。教えるために必要なのは既に持っている英語で、新しく伸びる部分がありません。頼むなら記録役・要約役です。班のやり取りを聞いて最後に1文でまとめる仕事は、聞く力と整理する力を使う、その子にとっての挑戦になります。
2つ目、受験をクラスに勧めないこと。英検を受けるかどうかは検定料を払う家庭の選択で、学校が推す話ではありません。持っている子に応えることと、持つことを勧めることは別です。この記事の手立ては、すべて授業の中で完結します。
その上で、できることは3つあります。
| 手立て | 具体 |
|---|---|
| ★3の段を用意しておく | can-doリストの★3は「教科書を超えて届いた」段です。全員が届かなくてよい段が最初から書いてあると、先に進む子の行き先が「別のプリント」ではなく同じ活動の上の段になります |
| 役割の質で上げる | 同じ活動のまま、記録役・要約役・質問を最初に出す役を割り当てます。量を足すのではなく、認知の仕事を変えます |
| 1文だけ条件を足す | 発表なら「理由をもう1文」、やり取りなら「聞き返しを1回入れる」。新しい単語や文法を足す方向ではなく、いま持っていることばを使い切る方向に伸ばします |
避けたいのは「速く終わった子のおかわりプリント」です。量の追加は、子どもの側からは罰として受け取られます。伸びている子への手当ては、量ではなく質の側で行うのが原則です。
保護者に「受けさせたほうがいいですか」と聞かれたら
答え方の例を1つ置いておきます。
「学校の授業は資格を前提にしていませんし、成績にも関係しません。受けるかどうかはご家庭の判断で大丈夫です。もし受けるなら、合格・不合格よりも、覚えたことばを授業で使えたという経験のほうが、その後に残ります」
事実の部分(授業は資格を前提にしない・評価に入れない)をはっきり言い、判断は家庭に返し、受ける場合の見方を1つ添える。この3段にしておくと、勧めることも止めることもせずに答えられます。学校として中立でいることと、質問に何も答えないことは違います。
まとめ: 級は横に置いて、段で見る
英検を持つ小学生は増え続けていて、その事実は教室の学力の幅がこれからも広がることを意味します。対応の物差しは持っておく。ただし授業で使う物差しは級ではなく、can-doリストの★の段です。学年の到達目標の作り方は学習到達目標(can-doリスト)の作り方に、★を記録に残す紙はきろくパスポートにまとめてあります。
中学校で教えていたとき、英検3級を持って入学してくる子は毎年いました。その子たちの中1の1年間を分けていたのは、級の高さではなく、小学校で「自分のことばが相手に伝わった」経験を持っているかどうかでした。級はその経験の代わりにはなりません。教室でしか作れないもののほうを、授業で作ってください。