国語でも漢字や音読に苦戦している子がいます。3・4年の外国語活動のときは、聞くだけ・言うだけだったので楽しそうにしていたのですが、5年で四線に文字を書き始めてから、外国語の時間に鉛筆を持ったまま固まってしまうようになりました。特別支援の専門的な勉強をしたことがなく、この子に何をしてあげられるのか分かりません。(小5担任)
「3・4年は楽しそうだった」は、いちばん大事な手がかりです
音声だけの時間は参加できていて、文字が入った時間から固まる。これは、英語そのものではなく文字の処理でつまずいている、ということをかなりはっきり示しています。手を打つ場所が決まっているぶん、動きやすい状態です。
そして、この子への配慮は「担任の心がけ」の話ではありません。学習指導要領解説 外国語活動・外国語編に、外国語科における配慮の例として、かなり具体的なところまで書かれています。まずそこを確認します。
解説が挙げている配慮例(原文)
1単語当たりの文字数が多い単語や,文などの文字情報になると,読む手掛かりをつかんだり,細部に注意を向けたりするのが難しい児童の場合,語のまとまりや文の構成を見て捉えやすくするよう,外国語の文字を提示する際に字体をそろえたり,線上に文字を書いたり,語彙・表現などを記したカードなどを黒板に貼る際には,貼る位置や順番などに配慮する。
音声のほうにも例が挙がっています。
音声を聞き取ることが難しい場合,外国語と日本語の音声やリズムの違いに気付くことができるよう,リズムやイントネーションを,教員が手拍子を打つ,音の強弱を手を上下に動かして表すなどの配慮をする。また,本時の流れが分かるように,本時の活動の流れを黒板に記載しておくなどの配慮をする。
読んで分かるとおり、どれも特別支援の専門知識を前提にしていません。掲示の仕方と、板書と、手の動きの話です。
3つの配慮例を、明日の教室の手に直す
| 解説のことば | 教室ですること | 具体 |
|---|---|---|
| 字体をそろえる | 教材とプリントの書体を1つに固定する | 板書・掲示・配る紙で、a と g の形を変えない。教科書体(UD書体)で統一する |
| 線上に文字を書く | 単語カードも掲示も、四線を引いた上に書く | 四線なしで書かれた語は、高さの手がかりが消える。b と d の区別は高さで支える |
| 貼る位置や順番 | 黒板に貼る場所を毎回同じにする | 新出語は左から右へ、時系列や意味のまとまり順に。日によって配置を変えない |
この3つは、その子だけのための工夫ではありません。学級の35人全員にとって見やすくなります。特別な配慮を1人にだけ足すのではなく、全員の紙の作り方を変える、という形にできるのが文字の配慮の良いところです。
このサイトの小学校版のPDFは、書体を教科書体でそろえ、文字を扱う紙はすべて四線の上に置く形で作っています。4せんでかこう アルファベット大文字・小文字は、薄い字をなぞってから自分で書く2段になっているので、いきなり白い四線に向かわずにすみます。
大前提: 小学校の「書くこと」は、書き写しまでです
固まってしまう場面が「書く」ところなら、目標そのものを確認しておく価値があります。解説の「書くこと」の目標はこうです。
大文字,小文字を活字体で書くことができるようにする。また,語順を意識しながら音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を書き写すことができるようにする。
自分のことや身近で簡単な事柄について,例文を参考に,音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いて書くことができるようにする。
小学校では、自力で英作文をさせる場面はそもそも求められていません。書き写すと例文を参考にが、両方の目標に書かれています。そして両方に「音声で十分に慣れ親しんだ」がついています。
つまり、書く活動は音声の活動のあとに置くもので、書けないことは音声で慣れ親しむ量が足りていないサインとして読むほうが正確です。書けない子に書く練習を足すのではなく、その語を聞いて言う回数を増やしてから紙に戻す。順番はこちらです。
「外す」のではなく「支える」——但し書きが釘を刺しているところ
解説は、配慮の例を挙げる前にこう書いています。
外国語科の目標や内容の趣旨,学習活動のねらいを踏まえ,学習内容の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないよう留意するとともに,児童の学習負担や心理面にも配慮する必要がある。
しんどそうだから、その子だけ書く活動を飛ばす——という方向には、はっきり留意を求めています。同時に、後半で心理面にも配慮せよと言っています。この2つを両立させると、こうなります。
| やらないこと | 代わりにやること |
|---|---|
| その子だけ書く活動を免除する | 書く量を減らす(4語→1語)。なぞりから始める |
| 早く書けた子に合わせて回収する | 時間で切らず、「1語書けたら持ってきて」にする |
| 書けたかどうかを全体で確認する | 机を回って個別に見る。前に出させない |
| 板書を写させる | 書き写す元を、その子の机の上に置く(手元にあると写せる子はかなり多い) |
いちばん最後は効きます。黒板から写すには、見る・覚える・視線を戻す・書く、の4工程が要ります。手元にあれば2工程です。単語カードを1枚渡すだけで書けるようになる子は、珍しくありません。
音声の時間では、この子はたいてい活躍できます
もうひとつ、忘れずにおきたいことがあります。文字でつまずいている子が、聞くこと・話すことでもつまずいているとはかぎりません。むしろ耳がよく、やり取りが得意な子は多いです。
外国語は、5つの領域のうち3つが音声です。文字の時間に固まる姿だけを見ていると、その子が英語そのものを苦手だと本人も先生も思い込んでしまいますが、45分の残りではまったく別の姿が見えることがあります。参加の段を4つ用意しておく話は3・4年向けに書きましたが、考え方は5・6年でも同じです。
評価のほうも、文字だけで決まる設計にはなっていません。何をどの領域で見るかは聞く・読む・書くの評価に整理しました。
記録して、来年の担任に渡す
解説は、配慮例の直後にこう続けています。
なお,学校においては,こうした点を踏まえ,個別の指導計画を作成し,必要な配慮を記載し,翌年度の担任等に引き継ぐことなどが必要である。
引き継ぐところまでが求められています。今年うまくいった手——単語カードを机に置く、なぞりから始める、書く量を1語にする——を、短くていいので書き残してください。次の担任が同じ試行錯誤を1年かけてやり直さずにすみます。特別支援教育コーディネーターの先生に相談すると、既存の個別の指導計画に追記する形にしてもらえることが多いです。
中学校で苦しむのは、放置された子のほうです
中学校に上がってから英語で苦しむ子の多くは、文字でつまずいたところを放置されたまま単語テストが始まった子です。逆に、小学校で「なぞりならできた」「1語なら書けた」という経験がある子は、中学校の最初の単語テストで0点を取っても、もう一度鉛筆を持ちます。
5年生の今、この子に必要なのは、書けるようになることではなく、書くことから逃げないですむ紙のほうです。