授業中に「先生、消しゴムって英語で何て言うの?」と聞かれて、とっさに出てきませんでした。「うーん、なんだろうね」とあいまいに流してしまい、あとで調べて eraser だと分かったときに、すごく情けなくなりました。子どもの前で「わからない」と言うのがこわいです。(小5担任・外国語は2年目)
その場で流してしまったこと自体は、たいしたことではありません
まず、いちばん気にされているところから。あいまいに流したことで、その子の英語がどうにかなることはありません。子どもは eraser を知らないまま今日を終えただけで、それは授業の何かが壊れたわけではありません。
ただ、ご相談の文面から伝わってくるのは、eraser が出てこなかったことよりも、「これから毎回こういう場面が来る」という見通しのつらさのほうだと思います。実際、来ます。英語の時間に子どもが「何て言うの?」と聞いてくるのは、授業がうまくいっている証拠でもあるからです。自分のことを英語で言いたくなった子だけが、その質問をします。
なので、答えられるようになる方向ではなく、聞かれても平気になる方向に手を打ちます。
その場で言う3つを、先に決めておく
とっさに出ないのは英語力の問題ではなく、返す言葉を用意していないからです。次の3つを口に出せるようにしておくと、止まらなくなります。
| 場面 | 言うこと | そのあと |
|---|---|---|
| 調べればすぐ分かりそう | Good question! Let's check it. | 端末かデジタル教科書でその場で調べて、全員に見せる |
| 授業の流れを止めたくない | I'll find out. Ask me again next time. | 黒板の隅に書いておき、次の時間の最初に返す |
| その子だけが知りたい語 | Nice word! Write it in your notebook. | ふりかえりカードの余白にメモさせる |
3つ目がとくに大事です。学級の35人全員に必要な語と、その子1人が言いたい語は、別ものです。全部を学級の学習語彙にしようとすると、単元で扱う語が際限なく増えて、いちばん覚えてほしい語がぼやけます。
調べるところを、わざと見せる
いちばん効くのは、その場で調べて見せることです。デジタル教科書の絵辞書でも、端末の辞書アプリでも、教室に置いた英和・和英辞典でもかまいません。
これは時間の埋め合わせではなく、それ自体が価値のある場面です。子どもがこれから中学・高校と英語を続けていくとき、いちばん長く使う技術は「知らない語を調べる」ことのほうです。先生が調べるところを見せている教室では、子どもも自分で調べにいくようになります。逆に、先生がいつも即答する教室では、子どもは英語を「先生に聞くもの」だと覚えます。
質問が来るタイミングは、だいたい決まっている
無防備に来るわけではありません。子どもが「何て言うの?」と聞いてくるのは、次の3つの場面にかたまります。
- 自分のことを言う場面(すきなもの、行きたい国、将来の夢)——教科書の絵に自分のものが載っていないとき
- 書く場面(名刺づくり、ポスター、カード)——言えたものを文字にしようとしたとき
- 家で見た英語を持ってきたとき——ゲームや動画で見た語
このうち1つ目は先回りできます。単元の主活動の前に、その単元で子どもが言いたくなりそうな語を10〜15語だけ、絵カードか掲示にしておく。単元パックの語彙まわりの紙はこの用途で作ってあります。「すきなスポーツ」の単元なら、教科書に出ている6種類のほかに、その学級の子が実際にやっている競技をいくつか足しておく、という程度で足ります。
3つ目については、答えなくてよいものもあります。ゲームで見た語や、意味を確かめずに使われている語は、その場で「それは先生も分からないから、あとで一緒に調べよう」に回してかまいません。
教科書にない語は、どこまで扱えばいいのか
小学校の外国語で扱う語数は、学習指導要領解説 外国語活動・外国語編で600〜700語程度と示されています。ただし解説は、この数字についてこう補足しています。
「600 語」とは小学校の外国語活動及び外国語科で指導する語数の下限を,「700 語」とは指導で取り扱う一定の目安となる語数を示したものであり,700 語程度を上限とするという趣旨ではない。
上限ではない、と書かれています。だから、子どもが知りたがった語を足すこと自体は何も問題がありません。同時に解説は、聞いて意味が分かればよい語(受容語彙)と、話したり書いたりできるようにする語(発信語彙)を分けて考えるように求めています。
これを教室の判断にすると、こうなります。子どもが持ち込んだ語は、聞いて分かればよい語として扱う。テストにも評価にも入れない。学級全員に覚えさせる語は、教科書の単元が示している範囲のまま動かさない。この線を引いておくと、質問が来るほど教室の英語は豊かになるのに、指導する量は増えません。
授業で使う先生の英語は、種類が少ない
とっさに出てこないつらさの半分は、「授業中ずっと英語で対応しなければならない」という思い込みから来ています。実際には、先生が授業で使う英語はほとんどが決まり文句で、種類はかなり限られます。
先生用のClassroom Englishを、授業の流れ順に1枚にまとめて無料で置いてあります。教卓に置いて、見ながら言う形でかまいません。子ども用の「こまったときの えいご」も同じところにあるので、黒板の横に貼っておいてください。子ども側に What's this in English? を持たせておくと、質問そのものが英語の練習になります。
自分の英語そのものへの不安は、発音に自信がないという相談のほうに、音源と台本にどこまで預けられるかを書きました。
中学校の教室から見ていたこと
中学1年生を受け持っていたころ、4月に「英語、好きだった?」と聞くと、好きだと答える子の理由はほとんど同じでした。小学校の先生が楽しそうだった、というものです。英語がうまかった、と言った子には、6年間で一度も会いませんでした。
eraser が出てこなかった日のことを、その子はおそらく覚えていません。覚えているとしたら、そのあと先生が辞書を引いてくれた日のほうです。