生徒が勇気を出して言った I go to Kyoto last week. を、その場で「went でしょ」と直す。正しい指導に見えますが、これを繰り返した教室で何が起きるかは、多くの先生が経験的に知っています。発話量が減るのです。生徒は「間違えたら止められる」と学習し、間違えない最良の方法である沈黙を選びはじめます。
かといって、直さなければ誤りは化石化します。I don't hungry. を3年間放置すれば、それはその生徒の英語として固まります。直しすぎれば黙り、直さなければ固まる——このジレンマを解くのが、訂正のタイミングと方法の設計です。
大原則: 活動の目的で訂正ルールを変える
いちばん大事な原則は1つだけです。今やっている活動は正確さが目的か、流暢さが目的か。それで訂正の扱いを切り替えます。
| 活動 | 目的 | 訂正 |
|---|---|---|
| ドリル・パターン練習・書き換え | 正確さ | その場で直す。ここで直さないとドリルの意味がない |
| スピーチ準備・英作文の推敲 | 正確さ | 提出前に自分で直させる仕掛けを(後述) |
| ペアの会話活動・チャット・即興のやりとり | 流暢さ | 途中で止めない。メモして活動後にまとめて |
| 帯活動(しゃべりつづけマラソンなど) | 流暢さ | 原則直さない。量が目的の時間 |
このルールを生徒にも公開します。「この活動は間違えていい時間。止めないから話し続けて」と宣言された活動では、生徒は安心して口を動かせます。逆にドリルの時間は「今は精密検査の時間」と言えば、細かい訂正にも納得感が出ます。
直し方の3つの道具
その場で直すと決めた場面でも、直し方には強度の違う道具があります。
- リキャスト(さりげない言い直し): 生徒 I go to Kyoto last week. → 先生 Oh, you went to Kyoto! How was it? 会話の流れを切らずに正しい形を聞かせます。ただし、さりげなさすぎて訂正だと気づかない生徒も多い、という弱点は知っておくべきです。
- 自己訂正の促し: 「もう一回言ってみて」「go…?」と眉を上げて待つ。誤りの場所だけ示して、直すのは本人に任せます。自分で直せた誤りは、直してもらった誤りより残ります。時間はかかるので、全体の前では1日数回が現実的です。
- 明示的訂正: 「過去の話だから went ね」とはっきり直す。ドリルの時間、そしてクラス全体に共有したい誤りに使います。
迷ったら、2→1→3の順で試すのがおすすめです。まず本人に直すチャンスを渡し、だめなら聞かせ、それでも必要なら明示する。
全部は直さない——優先順位の付け方
英作文の添削も発話の訂正も、すべての誤りを扱う必要はありません。優先すべきは次の2種類です。
- 意味が壊れる誤り: 伝えたい内容が誤解される誤り(He don't like me. と He doesn't like it. の取り違えなど)。コミュニケーションに実害があるものが最優先です。
- 今の単元の目標文法: 現在完了の単元なら現在完了の誤りは拾い、冠詞や前置詞の細かい誤りは今日は見送る。「今日の観点」を絞ると、生徒も何に気をつければいいか分かります。
この「観点を絞る」考え方は、定着ドリルのまちがい診療所の設計と同じです。誤文を診断して、なぜ間違いかを自分の言葉で説明する練習を積むと、生徒は自分の発話にも同じ診断ができるようになります。
活動後のまとめ訂正——教室の宝物にする
流暢さの活動中にメモした誤りは、活動後に「さっき教室で聞こえた文」として無記名で板書します。I have a many friends. と書いて「これ、直せる人?」——誰の発話かは言いません。誤りが個人の失敗から教室の教材に変わります。
このとき、良かった表現も一緒に紹介するのが大事な小技です。訂正だけの振り返りは監視の空気を生みますが、「この表現うまかった」が混ざると、先生は聞いてくれているという空気に変わります。
明日からの一歩
- 次の会話活動の前に「この時間は止めない」と宣言してみる
- 机間指導でノートの端に誤りをメモし、活動後に無記名で2つだけ板書する
- 添削の観点を「今の単元の文法+意味が壊れる誤り」の2つに絞ってみる
会話活動そのものの設計はペア・グループ活動の技術、書く場面のフィードバックはライティング指導の技術で扱います。