英語教材ラボ

話すの技術

誤り訂正の技術|いつ直す・どう直す・直さない勇気

英語の授業での誤り訂正(エラーコレクション)の技術。正確さの活動と流暢さの活動で訂正のルールを変える原則、リキャスト・明示的訂正・自己訂正の促しの使い分け、直すべき誤りの優先順位、生徒が萎縮しないフィードバックの言い方まで、中学英語の現場向けに解説します。

公開 2026-07-19・更新 2026-07-19

生徒が勇気を出して言った I go to Kyoto last week. を、その場で「went でしょ」と直す。正しい指導に見えますが、これを繰り返した教室で何が起きるかは、多くの先生が経験的に知っています。発話量が減るのです。生徒は「間違えたら止められる」と学習し、間違えない最良の方法である沈黙を選びはじめます。

かといって、直さなければ誤りは化石化します。I don't hungry. を3年間放置すれば、それはその生徒の英語として固まります。直しすぎれば黙り、直さなければ固まる——このジレンマを解くのが、訂正のタイミングと方法の設計です。

大原則: 活動の目的で訂正ルールを変える

いちばん大事な原則は1つだけです。今やっている活動は正確さが目的か、流暢さが目的か。それで訂正の扱いを切り替えます。

活動目的訂正
ドリル・パターン練習・書き換え正確さその場で直す。ここで直さないとドリルの意味がない
スピーチ準備・英作文の推敲正確さ提出前に自分で直させる仕掛けを(後述)
ペアの会話活動・チャット・即興のやりとり流暢さ途中で止めない。メモして活動後にまとめて
帯活動(しゃべりつづけマラソンなど)流暢さ原則直さない。量が目的の時間

このルールを生徒にも公開します。「この活動は間違えていい時間。止めないから話し続けて」と宣言された活動では、生徒は安心して口を動かせます。逆にドリルの時間は「今は精密検査の時間」と言えば、細かい訂正にも納得感が出ます。

直し方の3つの道具

その場で直すと決めた場面でも、直し方には強度の違う道具があります。

  1. リキャスト(さりげない言い直し): 生徒 I go to Kyoto last week. → 先生 Oh, you went to Kyoto! How was it? 会話の流れを切らずに正しい形を聞かせます。ただし、さりげなさすぎて訂正だと気づかない生徒も多い、という弱点は知っておくべきです。
  2. 自己訂正の促し: 「もう一回言ってみて」「go…?」と眉を上げて待つ。誤りの場所だけ示して、直すのは本人に任せます。自分で直せた誤りは、直してもらった誤りより残ります。時間はかかるので、全体の前では1日数回が現実的です。
  3. 明示的訂正: 「過去の話だから went ね」とはっきり直す。ドリルの時間、そしてクラス全体に共有したい誤りに使います。

迷ったら、2→1→3の順で試すのがおすすめです。まず本人に直すチャンスを渡し、だめなら聞かせ、それでも必要なら明示する。

全部は直さない——優先順位の付け方

英作文の添削も発話の訂正も、すべての誤りを扱う必要はありません。優先すべきは次の2種類です。

  • 意味が壊れる誤り: 伝えたい内容が誤解される誤り(He don't like me. と He doesn't like it. の取り違えなど)。コミュニケーションに実害があるものが最優先です。
  • 今の単元の目標文法: 現在完了の単元なら現在完了の誤りは拾い、冠詞や前置詞の細かい誤りは今日は見送る。「今日の観点」を絞ると、生徒も何に気をつければいいか分かります。

この「観点を絞る」考え方は、定着ドリルのまちがい診療所の設計と同じです。誤文を診断して、なぜ間違いかを自分の言葉で説明する練習を積むと、生徒は自分の発話にも同じ診断ができるようになります。

活動後のまとめ訂正——教室の宝物にする

流暢さの活動中にメモした誤りは、活動後に「さっき教室で聞こえた文」として無記名で板書します。I have a many friends. と書いて「これ、直せる人?」——誰の発話かは言いません。誤りが個人の失敗から教室の教材に変わります。

このとき、良かった表現も一緒に紹介するのが大事な小技です。訂正だけの振り返りは監視の空気を生みますが、「この表現うまかった」が混ざると、先生は聞いてくれているという空気に変わります。

明日からの一歩

  • 次の会話活動の前に「この時間は止めない」と宣言してみる
  • 机間指導でノートの端に誤りをメモし、活動後に無記名で2つだけ板書する
  • 添削の観点を「今の単元の文法+意味が壊れる誤り」の2つに絞ってみる

会話活動そのものの設計はペア・グループ活動の技術、書く場面のフィードバックはライティング指導の技術で扱います。

紹介した教材はすべて無料PDFでダウンロードできます

ほかの指導テクニック